書評『世界は「関係」でできている』 第273回

書評

量子力学の理論物理学者カルロ・ロヴェッリの一般読者向けの『時間は存在しない』に続く新作です。前著では「量子力学は、物理的な変数が粒状であること(粒状性)と不確定であること(不確定性)とほかとの関係に依存すること(関係性)、この三つの基本的な発見をもたらした」とし、「存在するのは、出来事と関係だけ。これが、基本的な物理学における時間のない世界」とこれまでの到達点の解説でした。

『世界は「関係」でできている』はその3年後の著書です。古い物理学が提供してきた明瞭で確固たる世界観は、実は幻であったとして、発見から100年経過しても、今だに解明できていない量子論。「堅牢だったはずの物理学的世界は、どうやら雲をいただく塔や、絢爛豪華な宮殿のように、宙に消えてしまった」とします。

「この世界が属性を持つ実体で構成されているという見方を飛び越えて、あらゆるものを関係という観点から考えるしかない」という結論になっていきます。

そして、ナーガールジュナ(龍樹)の『中論』にたどり着きます。「わたしたちがいるということの芯になる本質、理解すべき謎に包まれた究極の本質は、存在しない。わたしは、互いに連絡し合う膨大な現象が構成する総体でしかなく、それらは依存し合っている」というまさに仏教の空の思想、縁起説になってきます。このことはロヴェッリにとっては意外な発見となりました。

20世紀の物理学の最大の発見は、相対性理論と量子理論だそうです。「アインシュタインの特殊相対性理論を通して、同時性が相対的な概念であることを発見した。量子論の発見はそれよりほんの少しだけ過激で、この理論によると、あらゆる対象物のあらゆる属性が、速度のように相対的だということ」になります。

「何かを理解しようとするときに確かさを求めるのは、人間が犯す最大の過ちの一つだ」と著者は言います。これらなどは浄土真宗の「信心」に繋がっていきます。

この記事を書いた人
山崎 隆弘

山崎隆弘事務所所長
公認会計士・税理士

1960年福岡県生まれ。福岡市在住。29歳で公認会計士試験に合格。以来、中央青山監査法人(当時)で10年間勤務。会計監査、システム監査、デューデリジェンスに従事し、上場企業などの主査を務めるが、39歳のときに胆管結石による急性胆管炎を発症する。結石の除去に入退院を繰り返し、監査法人を退職。

1年間の休養後、41歳で父親の会計事務所に入所。44歳のときに同事務所を引き継ぎ、公認会計士事務所を開設。同時に妻二三代が入所。「ビジネスと人生を楽しくする会計事務所」がモットー。家族で踊る「会計体操」は、NHK・フジテレビ・KBC・RKB・読売新聞・西日本新聞など多数のメディアで取り上げられる。

著書に『年収と仕事の効率を劇的に上げる 逆算力養成講座』『なぜ、できる社長は損益計算書を信じないのか』。

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福岡市東区箱崎の公認会計士・税理士 山崎隆弘事務所
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