書評『嫌われた監督』 第270回

書評

今年の日本シリーズはヤクルトVSオリックスで、ソフトバンクホークスはクライマックスシリーズさえも出場できず、ひいきのチームが出ていないとこれだけ興味がわかないものかと思えるくらい、全くの無関心でした。

替わりにと言っては何ですが、中日ドラゴンズの落合博満監督時代のことを書いた『嫌われた監督』を読んでいました。ジュンク堂でベストセラー1位となっています。落合監督は8年間でリーグ優勝4回、日本一1回の成績を残しています。

『嫌われた監督』は監督就任から退任までの8年間をそれぞれ一人の選手・フロントを取りあげて、落合監督との係わりで書かれています。著者は当時、中日番の記者だった鈴木忠平さんです。

あまりに面白くて一気読みしてしまいました。現役時代は3度の三冠王と圧倒的な成績を残した落合監督ですが、孤高のイメージが強いです。監督になってからも、周りに理解されずに年々に孤立していき、監督最後のシーズンは何とペナントレースが終わらないうちに、球団社長から契約を更新しない旨の発表がありました。

その時点で、首位ヤクルト4.5ゲーム差がありました。直前の巨人との対戦で負け、ほぼ優勝の行方が決まりつつある状況でした。真偽のほどはハッキリしませんが、巨人戦を観戦していた当時の中日球団社長がガッツポーズをしたという噂が広がり、選手一同燃え上がり逆転のリーグ優勝してしまいます。日本シリーズではソフトバンクに3勝4敗で負けますが、これは余興のようです。

著者の鈴木記者は落合監督の自宅に押しかけたり、新幹線に同席して取材していました。最終章に「落合というフィルターを通して見ると、世界は劇的にその色を変えていった。この世にはあらかじめ決められた正義も悪もなかった。列に並んだ先には何もなく、自らの喪失を賭けた戦いは一人一人の眼前にあった。孤独になること、そのために戦い続けること、それが生きることであるように思えた」と書いています。回りに流されず、自分を貫いた落合監督に十分、共感しました。

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