第288回 書評『AI監獄 ウイグル』

書評

著者は、米国人で調査報道ジャーナリストのジェフリー・ケインです。日本語訳は2022年1月の出版です。2017年8月から2020年9月まで、168人のウイグル人にインタビュー取材しています。主人公といえる「メイセム」(仮名)には2018年10月から2021年2月までに14回インタビューをしたそうです。

まさにホットな直近のウイグルの状況をレポートしています。2013年にウイグルに行ったときには、急に銃を携帯した兵隊がバスの中に乗り込んでき、異様な雰囲気でした。シルクロードツアーの一環でしたが、顔も宗教も違い、まさに中国であって中国でない感じでした。新疆(しんきょう)ウイグル自治区の「新疆」とは「新たな征服地」という意味です。

1100万人のウイグル人のうち、強制収容所に収容された人数は2017年までに150万人に膨れ上がっています。メイセムは、一旦は収容所に入れられ、再教育を受けます。2013年、社会科学の学位を取得して北京の大学を卒業し、トルコの大学院に進学します。その学歴自体が問題とされます。なんとか奇跡的に解放され、インタビューを受けます。

中国テクノロジーの国家的象徴であるファーウェイ(中国名の「華為」は中国のための意)は、2010年から2015年にかけて新疆市場で存在感を強めていきます。ゾッとしたのが顔認証の技術です。2010年頃には、ほとんど個別認識できなかったコンピュータが、犯罪者用に急速に開発した結果、今、私たちがスマホで顔認証できるサービスに繋がっています。最近はマスクをしていても認証します。

AIを使って、個人のビッグデータを作成し、徹底的な監視体制を中国はウイグル地区に構築していきます。まさにジョージ・オーウェルの『一九八四年』の世界です。メイセムはこの本を読んで、英国の作家が70年前に自分の経験を予言するなんてと、ビックリしています。まさにリアル『一九八四年』です。隣の国の知らない土地の話では済ませられません。AI を悪意で使用することの危険性を知らされます。

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