第367回 書評『福岡伸一、西田哲学を読む: 生命をめぐる思索の旅』

書評

『生物と無生物のあいだ』で動的平衡を主張した福岡伸一さんが、西田研究の第一人者である池田善昭さんとの5回、15時間にわたる対談を中心に、2015年10月から2017年6月までに両者で取り交わされた500通以上の電子メール、対談のためのレジュメ、論文などをまとめたものです。
動的平衡とは、合成と分解との動的な平衡状態が「生きている」ということであり、生命とはそのバランスの上に成り立つ「効果」であると、福岡さんは一連の著作で論じています。
京都大学卒の福岡伸一さんは、京都大学の巨人、西田幾多郎の生い立ちと思想を取り上げたNHKの番組の取材で、西田氏の故郷を訪ねます。その取材の過程で西田哲学の「絶対矛盾的自己同一」が腑に落ちる経験をします。
西田哲学が存在とは「単なる『多』でもないけれども単なる『一』でもない、しかし『多』であると同時に『一』でもある」という洞察が「動的平衡」のコンセプトと重なることを感じたそうです。
西田哲学を研究している池田さんは、福岡さんと西田幾多郎に共通する〈ものの考え方〉、すなわち二人とも「あいだ」に立っていることに気付き、対談が企画されたとのことです。
池田さんの解説では、古代ギリシアのヘラクレイトスは「相反するものの中に美しい調和がある」という「ピシュス(自然)」の立場をとりますが、ソクラテス・プラトンの時代には人間の理性に合致するもののみを追求する「ロゴス」となり、矛盾ないほうへ展開していったそうです。
ヘラクレイトスが「万物は流転する」「相反するところに最も美しい調和がある」というピュシスの立場がある一方、「存在者」だけでものを語ろうとするロゴスの立場があり、お二人はピュシスにより共感していきます。どうしても福岡さんが納得できないことは、池田さんがメールでより説明していくという風になかなか臨場感があります。
西田幾多郎自身は真宗の家に生まれただけで信者ではないと言っていますが、西田哲学が仏教、親鸞思想とつながっていること充分に感じさせてくれました。

この記事を書いた人
山崎 隆弘

山崎隆弘事務所所長
公認会計士・税理士

1960年福岡県生まれ。福岡市在住。29歳で公認会計士試験に合格。以来、中央青山監査法人(当時)で10年間勤務。会計監査、システム監査、デューデリジェンスに従事し、上場企業などの主査を務めるが、39歳のときに胆管結石による急性胆管炎を発症する。結石の除去に入退院を繰り返し、監査法人を退職。

1年間の休養後、41歳で父親の会計事務所に入所。44歳のときに同事務所を引き継ぎ、公認会計士事務所を開設。同時に妻二三代が入所。「ビジネスと人生を楽しくする会計事務所」がモットー。家族で踊る「会計体操」は、NHK・フジテレビ・KBC・RKB・読売新聞・西日本新聞など多数のメディアで取り上げられる。

著書に『年収と仕事の効率を劇的に上げる 逆算力養成講座』『なぜ、できる社長は損益計算書を信じないのか』。

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福岡市東区箱崎の公認会計士・税理士 山崎隆弘事務所
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