『茶聖』 第230回 

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昨年紹介した『真実の航跡』の伊東潤さんの新刊本です。これは第二次世界大戦時の話でした。伊東さんとしては時代小説が本領のようです。『走狗』『西郷の首』『武士の碑』など西郷さん関連も多く、西郷ファンとしては是非読んでみないといけません。

『茶聖』は本能寺の変の前後から始まります。信長没後、秀吉が天下人になって、表の秀吉と、世の静謐を担う裏の利休のお互いのつばぜり合いで物語が進んでいきます。

不勉強のため、利休は名前からして僧侶と思っていましたが、堺の商人で、田中宋易という名前です。禁中茶会にあたって町人の身分では参内できないために、利休という居士号を正親町天皇から与えられます。

九州を制圧した秀吉を、筥崎宮参道横の真言宗恵光院に茶室を設けて、帰還を迎えています。筥崎宮に1ヶ月も秀吉は滞在しています。秀吉、利休ゆかりの茶道具が筥崎宮に残っているとは聞いていましたが、利休・秀吉と箱崎がこれだけ縁が深かったとは知りませんでした。

70才で、秀吉から切腹を命じられるまでの二人の駆け引きが見事です。519頁もある大部な本ですが、会話が多いため、意外とスンナリと読めます。

天下人となった秀吉が、狂ったように全てを求める姿がリアルです。秀吉は「悉」という言葉を最も好み、「ことごとく」自分のものとしていきます。

逆鱗に触れた者は、ほぼ切腹を命じられるか、武士でなければ磔(はりつけ)にされます。町人でありながら、切腹を命じられた利休はまだマシだったとも言えます。

秀吉に磔にされた弟子の宋二は「この世のあらゆるものを手に入れても、そなたの欲は収まらん。苦しんでいるのは、わしではなくそなたなのだ」と言って、死んでいきます。

『大無量寿経』の「少欲知足」が身に沁みます。

 

この記事を書いた人
山崎 隆弘

山崎隆弘事務所所長
公認会計士・税理士

1960年福岡県生まれ。福岡市在住。29歳で公認会計士試験に合格。以来、中央青山監査法人(当時)で10年間勤務。会計監査、システム監査、デューデリジェンスに従事し、上場企業などの主査を務めるが、39歳のときに胆管結石による急性胆管炎を発症する。結石の除去に入退院を繰り返し、監査法人を退職。

1年間の休養後、41歳で父親の会計事務所に入所。44歳のときに同事務所を引き継ぎ、公認会計士事務所を開設。同時に妻二三代が入所。「ビジネスと人生を楽しくする会計事務所」がモットー。家族で踊る「会計体操」は、NHK・フジテレビ・KBC・RKB・読売新聞・西日本新聞など多数のメディアで取り上げられる。

著書に『年収と仕事の効率を劇的に上げる 逆算力養成講座』『なぜ、できる社長は損益計算書を信じないのか』。

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福岡市東区箱崎の公認会計士・税理士 山崎隆弘事務所
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