第377回 書評『働く幸せ 仕事でいちばん大切なこと』  

書評

著者は日本理化学工業㈱の社長・会長を50年間歴任した大山泰弘さんです。日本理化学工業は1960年に初めて知的障害者を雇用して以来、一貫して障害者雇用を押し進めています。2018年には、85人の社員のうち63人が知的障害者が占め、製造ラインをほぼ100%知的障害者のみで稼働しています。こうした経営が評価され、2009年、渋沢栄一賞を受賞しています。2019年、87才でお亡くなりになっています。

創業以来、チョークを生産してきており、粉がでないダストレス・チョーク、幼児用教材のキットパスなどを開発し、販売して業績を伸ばしてきました。1960年に知的障害者を2名採用した時は障害者雇用に対する理念もなく、ちょっとした同情心と、なりゆきで始まったに過ぎなかったそうです。

しかし、それはとんだ思い上がりであったことに気づかされます。大山社長は、彼・彼女たちから、人生にとって大切なことはなにか、人はいかに生きるべきかを教えられます。

人間の幸せは、働くことによって手に入れることができるという真理を気づかせてくれたのは知的障害者でした。人は仕事をすることで、ほめられ、人の役に立ち、必要とされるからこそ、生きている喜びを感じることができます。

家や施設で保護されているだけでは、この人間としての幸せを得ることはできません。だからこそ、彼ら知的障害者は必死になって働こうとします。まず、人の役に立ち、必要とされると、目の輝きが違ってきます。健常者よりも、熱心に時間を忘れて働こうとします。

知的障害者が民間企業で働くのは、身体障害者以上に難しいことだそうです。そこを、健常者がフォローし、皆で知恵をだすことによって、営業、事務などの業務を健常者が担い、製造部門は数人を除いてほぼ100%知的障害者が担う体制が出来上がっています。障害者を雇用していると、皆が助け合って、特に社員教育もいらないそうです。

不労所得を有り難がる風潮がありますが、根本的なことに気づかせてくれる本です。

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