相続

令和元年度 税制改正 ➁資産課税 第208回

元気ですか! 福岡市天神の公認会計士・税理士の山崎隆弘です。

第2回目は資産課税です。個人事業者の事業用資産に係る相続税の納税猶予制度が創設されています。いわゆる個人の事業承継税制です。

2024年3月31日までに「承継計画」の提出が要件です。提出していれば、2019年1月1日から2028年12月31日までの相続または贈与について適用されます。

「承継計画」とは、認定経営革新等支援機関の指導及び助言を受けて作成された特定事業用資産の承継前後の経営見通し等が記載された計画となります。認定経営革新等支援機関とは      専門知識や、実務経験が一定レベル以上の者に対し、国が認定する公的な支援機関とされており、具体的には、商工会や商工会議所など中小企業支援者のほか、金融機関、税理士、公認会計士、弁護士等になります。

事業承継税制の内容は、事業用の宅地、建物、その他一定の減価償却資産について、適用対象部分の課税価格の100%に対応する相続税・贈与税額が納税猶予となります。事業用宅地の面積上限は400㎡、事業用建物の床面積上限は800㎡となっているので、不動産をそれ以上所有していれば、当然100%の納税猶予とはなりません。

法人の事業承継税制と同様に、担保を税務署に提供しなければならず、要件を満たさず猶予取り消しとなると、猶予税額及び猶予期間の利子税を一括納付しなければなりません。ですから、取り消しのリスクがあります。

それは事業等の継続要件です。相続税の申告期限後、終身、事業・資産保有を継続しなければなりません。個人事業において、終身継続するというのはかなり厳しい要件ではないかと思います。死亡、一定の重度障害、一定の災害の場合は猶予税額を免除するとはあります。

そうでなければ、一生、働き続けなければならないということでしょうか。

『社長、その税金ゼロにできる』 第205回

元気ですか! 福岡市天神の公認会計士・税理士の山崎隆弘です。

表題のタイトルの本を本屋で見かけました。著者は税理士の清田幸弘氏で小山昇社長絶賛と帯にあります。これは事業承継税制のことだなと思って、めくってみたらやはりそうでした。事業承継税制の「特例」を利用すれば、今なら贈与税、相続税が猶予となり、条件を満たせば最終的にゼロとなります。

「特例」は2018年4月1日〜2027年12月31日までの期間限定です。まずは最初の5年間の2023年3月31日までに「認定支援機関」の指導を受けて作成した「特例承認計画」を都道府県知事に提出して、円滑化法の認定を受けなければなりません。「認定支援機関」とは、金融機関、商工会議所、公認会計士、税理士、弁護士などで、国が認定する公的な機関です。

次に、2027年12月31日までに所有株式を後継者に一括して贈与します。この時までに贈与していなければ、「特例承認計画」を提出していても、「特例」の事業承継税制の適用を受けることができません。逆に、「特例承認計画」を提出していなければ「特例」を受けることができませんので、すぐに贈与する予定がなくても、「特例承認計画」をとりあえず提出しておくことも必要です。

また、「特例承認計画」を提出していなかったとしても、2023年3月31日までに先代経営者が亡くなった場合は、相続税の事業承継税制の「特例」を受けることができます。

贈与の場合、税務署に都道府県庁から交付された「認定書」と贈与税申告書を税務署に提出し、納税猶予に見合う担保を提供することになります。贈与税の納税猶予を受けて5年間は、年に1度、都道府県庁、税務署への報告・届出をします。6年目以降は、3年に1度、税務署に届出をします。

リスクもあります。認定が途中で取り消された場合、猶予されている贈与税または相続税及び利子税を納付しなければなりません。そのため相続時精算課税制度との併用が認められています。ただし、この本でも「節税」という観点からは必ずしも最善策とは言えないとしています。ケースごとに判断、選択することになります。

 

 

 

暦年贈与の実例 第204回 

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贈与税の計算は、まず、その年の1月1日から12月31日までの1年間に贈与によりもらった財産の価額を合計します。続いて、その合計額から基礎控除額110万円を差し引き、残額に税率を乗じて税額を計算します。

平成27年以降の贈与税の税率は、「一般贈与財産」と「特例贈与財産」に区分されます。「特例贈与」は直系尊属(祖父母や父母など)から20歳以上の子・孫などへ贈与する場合です。「一般贈与」は「特例贈与」に該当しない場合で、「特例贈与」よりも少し割高になります。

200万円以下の税率10%は「一般贈与」も「特例贈与」も同様です。例えば310万円を贈与した場合、310-110=200万円に10%を乗じて20万円が贈与税とります。

お客様に、相続対策で一番効くのは暦年贈与ですとご案内しています。これは金融機関ではあまり紹介されない相続対策であると、税理士協会の研修で言っていました。金融機関にとってメリットがないからだそうです。

最近の相続税申告で、私がご案内していた通りに300万円づつ、お子さん方に相続されて、10年近く経っていましたので、1億円近く相続財産が減っていました。

相続税率が30%とすると、3千万円の税金が減ったことになります。それに対して支払った贈与税は6百万円弱です。金額・年数の違いはありますが、2件続けて暦年贈与をされていた実例に当たりましたので、つくづく暦年贈与の効果を実感しました。

これに対して、相続時精算課税制度は、相続財産が限られている場合は有効とは思いますが、暦年贈与が使用できなくなるため、あまりお勧めはしていません。

また、お孫さんの教育費は、実際に学校等に支払う場合は、教育資金贈与制度を使うまでもなく、扶養義務がありますので贈与には該当しません。

 

相続時精算課税制度と事業承継税制の併用 第177回 

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事業承継税制の「特例」が平成30年度税制改正により、平成30年1月1日から適用されています。

昨年の平成29年度税制改正では、少しでも事業承継税制を使いやすいようにとの趣旨で、相続時精算課税制度との併用が認められています。

これは贈与税の納税猶予の適用を受けても、認定が取り消された場合に高額の贈与税負担が発生するリスクが存在するため、相続時精算課税制度との併用を認めたものです。

中小企業庁の資料では、株価総額3億円の会社の3分の2(2億円)を贈与した場合の例を挙げています。通常の相続で自社株を取得した場合、4,860万円の納税になります。これを事業承継税制を利用し、3分の2を贈与し、贈与税の納税が猶予猶予されます。

ただし、事業承継税制「特例」の認定が取り消された場合、贈与税が課税されます。これが約1億300万円となります。既に贈与されているので、相続税はゼロとなります。

1億300万円-4,860万円=5,440万円多く納税することになるリスクを避けるために、相続時精算課税制度を併用します。その場合、一旦は、贈与税を納税しますが、この場合でも、2,500万円が特別控除され、贈与税率は20%で計算するため、贈与税額は3,500万円となります。相続時に精算しますので、残りの1,360万円を相続税として納税します。

このような差異が生じるのは、贈与税は基礎控除額を加味すると、5,140万円超で最高税率55%が適用されるためです。また、相続税の場合は、基礎控除額が3,000万円あり、法定相続人一人当たり600万円の控除があります。

ただし、相続時精算課税制度は、贈与者は60才以上、受贈者は20才以上が適用対象者とされています。

事業承継税制の特例④ 第167回

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「特例」事業承継税制の4つめの改正は経営環境変化に応じた減免です。「原則」では、後継者が自主廃業や売却を行う際、経営環境の変化により株価が下落した場合でも、承継時の株価を基に贈与・相続税を算定し、猶予取消しとなった場合には、過大な贈与税額・相続税額の負担が生じるリスクがありました。

「特例」では、経営環境の変化を示す一定の要件を満たす場合においては、特例承継期間経過後に、

  1. 特例認定承継会社の非上場株式の譲渡をするとき
  2. 特例認定承継会社が合併により消滅するとき
  3. 特例認定承継会社が解散をするとき

には、売却・廃業時の株価を基に納税額を再計算し、減免可能とすることで、経営環境の変化による将来の不安を軽減しています。

「経営環境の変化を示す一定の要件を満たす場合」とは、次のいずれかの場合です。

  • 直前の事業年度終了の日以前3年間のうち2年以上、赤字である場合
  • 直前の事業年度終了の日以前3年間のうち2年以上、売上高が、前期の売上高に比べ減少している場合
  • 直前の事業年度終了の日における有利子負債の額が、売上高の6月分に相当する額以上の場合
  • 特例認定承継会社の事業が属する業種に係る上場会社の株価(直前の事業年度終了の日以前1年間の平均)が、その前年1年間の平均より下落している場合
  • 特例後継者が特例認定承継会社における経営を継続しない特段の理由があるとき

中小企業庁の制度概要の説明では、承継時の株価総額が2億円で納税猶予額が約1億円だったものが、25年後の売却価格が1.2億円と下がり、売却額に基づいた税額が0.6億円となるケースを紹介しています。1-0.6=0.4億円と4千万円減額となっています。

事業承継税制の特例③ 第166回

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「特例」事業承継税制の3つ目の改正は対象者の拡充です。「原則」では一人の先代経営者から一人の後継者へ贈与・相続される場合のみが対象となります。

「特例」では親族外を含む複数の株主から、代表者である後継者(最大3人)への継承も対象となります。中小企業経営の実状に合わせた、多様な事業承継を支援すると「税制大綱」に記載されています。

すなわち、特例承継計画に記載された特例後継者が2名又は3名以上の場合には、当該議決権数において、それぞれ上位2名又は3名の者までが対象となります。この場合、各々が総議決権数の10%以上を有すること等が要件として追加されています。

贈与する側または被相続人は、「原則」では一人に限定していましたが、「特例」では複数人を許容し人数に制限はありません。事業承継税制の市販の解説DVDでは、なぜこのような「特例」を設けたのか、理解できないと言っていました。

実務上、一人の経営者から、一人の後継者が一般的であり、アドバイスもそのようにしているとのことです。

中小企業の場合、複数の親族が株を所有していることがあります。創業者の親から子どもの世代には兄弟各々に株を渡している場合があります。3世代になるとその数が増えたままの会社もあります。そのための対応ではないかと思います。

それでも贈与ではなくて、売買だろうとDVDの講師は言っていました。創業当初は安い株価であっても、その後の業績により株価が高くなり、実際に本人が拠出したのは少しだけという場合を想定しているのかなとも思います。それでもいまこれだけの時価だからと、通常は売買を要求するのではないかとのことです。

また、特例後継者を3人までに拡げているのは、例えば3人兄弟のうち、どの子が経営者として適しているかまだ判然としないことを想定しているのかとも考えられます。

事業承継税制の特例② 第165回

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「特例」事業承継税制の2つ目の改正は雇用要件の見直しです。「原則」では、事業承継後5年間平均で、雇用の8割を維持することが求められています。雇用8割を維持できなかった場合は、猶予された贈与税または相続税の全額を納付する必要があります。

雇用8割維持が、事業承継税制を利用する際のネックになっていました。贈与時に25人の従業員だった場合、8割の20人を下回れば猶予された税金を全額納付しなければなりません。

平成25年度税制改正により「5年平均で8割」と緩和され、平成29年度税制改正により「80%判定の際の端数調整の方法」が見直されました。

すなわち、事業承継税制の雇用要件について、これまで維持すべき従業員数(5年平均で8割)を計算する際に端数を切り上げていたところを、切り捨てることとなりました。

具体的には、5人の場合は8割で4人は同様です。4人の場合は8掛けは3.2人で、切り捨てで3人で要件を満たします。3人の場合は8掛け2.4人で2人、2人の場合は8掛け1.6 人で、1人になっても要件を満たすようになりました。

今回の「特例」では、それでも雇用維持要件を満たせなかった場合であっても、納税猶予を継続可能としています。

ただし、この場合には、その満たせない理由を記載した書類を都道府県に提出しなければなりません。この書類は「認定経営革新等支援機関」からの意見が記載されているものに限ります。

なお、その理由が、経営状況 の悪化である場合または正当なものと認められない場合には、「認定経営革新等支援機関」からの指導及び助言を受けて、書類にその内容を記載しなければなりません。なお、この記載する理由の内容は、原則として、チェックボックスによる選択方式が検討されているようです。

事業承継税制の特例① 第164回

元気ですか! 福岡市天神の公認会計士・税理士の山崎隆弘です。

通常国会では、平成30年度税制改正法である「所得税法等の一部を改正する法律案」及び「地方税法等の一部を改正する法律案」が賛成多数により原案どおり可決され、改正法が成立しました。

両改正法と関連する政省令・告示は3月31日に公布され、原則として4月1日に施行されました。「事業承継税制の特例」は平成30年1月1日から遡及適用されます。

今回から「特例」についての特集です。現行の事業承継税制については「原則」的な制度として、そのまま残ります。

平成30年度改正での「特例」は平成30年1月1日から平成39年12月31日までの間に贈与または相続もしくは遺贈により取得する財産に係る贈与税または相続税について適用されます。

「特例」には大きく4つの改正があります。まず、①対象株式数上限等の撤廃です。「原則」では、納税猶予の対象になるのは、発行済議決権株式総数の2/3までです。相続税の納税猶予割合は80%ですので、実際に猶予される額は全体の約53%(2/3×0.8)に留まります。

「特例」では、「特例認定承継会社」の非上場株式を取得した場合には、その取得した全ての非上場株式に係る課税価格に対応する贈与税または相続税の全額について、その特例後継者の死亡の日等までその納税を猶予されます。

「特例認定承継会社」とは、「特例承継計画」を都道府県に提出した会社であって、中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律第 12 条第1項の認定を受けたものをいいます。福岡県の場合は、窓口は商工部中小企業振興課(092-643-3425)になります。

「特例承継計画」とは、認定経営革新等支援機関の指導及び助言を受けた特例認定承継会社が作成した計画であって、認定支援機関(商工会、商工会議所、金融機関、税理等)が所見を記載したものになります。

 

 

小規模宅地の特例 第144回

元気ですか! 福岡の公認会計士・税理士の山崎隆弘です。

相続税の基礎控除が、平成27年より5,000万円から3,000万円に引き下げられ、相続税の対象者が増えています。

それに伴い、小規模宅地特例の適用者も増えています。日経新聞によると、平成26年の適用件数は2万7,038件、27年の適用件数は6万7,325件と約2.5倍になっています。

小規模宅地とは、被相続人等の「事業」の宅地等又は被相続人等の「居住」の宅地等のうち、一定の選択をしたもので限度面積までの部分をいいます。小規模宅地については、相続税の課税価格に算入すべき価額の計算上、一定の割合を減額します。

小規模宅地の特例は相続や遺贈で宅地を取得した親族の「事業」と「居住」を税制面から保護しようとするものです。「居住」の宅地が特定居住用宅地等に該当する場合、面積330㎡までは80%評価を下げることができます。

自宅不動産が3,000万円の評価とすると、3,000×(1-0.8)=600万円と下がります。これを適用するだけで、相続税の基礎控除を下回る可能性があります。

特定居住用宅地に該当するためには、土地の要件として被相続人の「居住」に供されていた場合となります。相続する人の要件は、配偶者、亡くなった人と同居していた相続人、それと通称「家なき子」です。

「家なき子」特例は、たまたま相続開始時に別居していたために、同居親族の特例が使えない場合に、これを救済するために準備された制度です。相続開始前3年以内に自己または自己の配偶者の所有する家屋に居住したことがない、すなわち宅地を取得する親族に持ち家がないこが要件となります。

ただし、被相続人が居住の用に供していた家屋は除かれます。これは親の敷地に親族が家を建築し、被相続人が居住していた場合を認める趣旨とされます。

慎重に適用要件を確認しましょう。

生前贈与分岐点 第141回

元気ですか! 福岡の公認会計士・税理士の山崎隆弘です。

毎朝、事務所職員と岩下忠吾税理士の「相続税の重要ポイント」(平成28年度全国統一研修会)のビデオを見ています。実例・経験を交えてのお話につい引き込まれてしまいす。

その中で、生前贈与分岐点のお話がありました。まず相続税のシミュレーションをして相続税を算出し、相続税を遺産総額(債務控除後の金額)で割って相続税負担率を計算します。

相続税負担率が12%の場合、12%以下の贈与税率になる贈与税額を算出します。ここで贈与税負担率は贈与税÷贈与財産額で計算することとします。岩下先生の計算式では、基礎控除(110万円)を差し引いた後の贈与財産額で計算されていますので、少し異なります。

贈与税率は贈与財産額に応じて高くなっていきます。どこの税率を使用するかは、そのあたりの税率で何通りか計算してみてます。

710万円の贈与の場合、贈与税は90万円になり、贈与税負担率は90÷710=12.6%となります。710万円以下の場合の贈与税率20%と控除額30万円で方程式を解きます。

贈与税分岐点をxとすると、贈与税額yは

(x-1,100,000)×0.2-300,000=y

となり、x÷y=0.12を解くと、X =6,500,000円となります。12%贈与税負担率になるのは650万円の贈与の場合であり、これが贈与分岐点となります。相続税率と同じになります。

650万円以下の贈与でしたら、相続税よりもお得になります。例えば、310万円贈与すれば、20万円の贈与税であり、6%の贈与税負担率となります。

これを毎年繰り返していくと、大きな相続税対策となります。相続税対策で最も効果があるのは、時間を味方につけて、毎年贈与していくことです。

しかし、岩下先生のビデオで仰ってまいしたが、贈与しすぎて、奥さんから離縁されたおじいちゃんもいるそうです。今後の生活のことも考えて贈与しましょう。