2021年 3月 の投稿一覧

相続税対策は、贈与税、所得税、法人税、消費税を総合的に勘案しましょう 第253回

確定申告シーズンは、お客様以外からも何かと問合せがあります。昨年までは税務署と間違えての電話が多かったのですが、今年は意外と相続税の問合せが何件かありました。こちらのブログでも時々相続対策について書いているように、相続税にも対応しています。

相続税を考えなければ、会社の事業承継、個人財産の維持も難しくなります。うちの事務所の方針は、所得税、法人税、消費税、相続税、贈与税を総合的に勘案して、税金対策をすることです。法人税だけを見ていて、所得税、相続税を考えていないと片手落ちになってしまいます。

相続税を対策するに当たって、先ず考えることは、納税資金はあるか?ということです。例えば金融資産が3億円あって相続税が1億円だとしても、相続した金融資産で支払うことができます。これが相続財産が土地のみの場合、納税資金がなければ物納になってしまいます。土地の物納の場合、いい物件から物納となってしまいますので、この物納だけは避けたいところです。

相続対策として、事業承継税制、相続時精算課税制度など新しい制度もありますが、新しい税制には落とし穴があります。事業承継税制は何社か検討しましたが、結局リスクが高いので、暦年贈与で対策を取ることにしました。

最も効果的な相続対策は、何年もかけて実行する暦年贈与です。1年ごとに贈与していくのが暦年贈与です。基礎控除額110万円を差し引いて税率を掛けます。贈与金額が310万円までは税率10%です。例えば120万円贈与して110万円を差し引いた10万円の10%の1万円を納付すれば、税務的には確定します。贈与契約書を作成し、贈与先の預金口座が名義預金ではなく、実質的に本人の口座への入金が必要です。

暦年贈与は、金融機関にとって何のメリットもありませんので、銀行・証券会社などの金融機関から紹介されることは基本的にありません。

相続時精算課税制度のデメリット 第250回

相続時精算課税制度とは、原則、60歳以上の父母又は祖父母から、20歳以上の子又は孫に対し、財産を贈与した場合において選択できる贈与税の制度です。

相続時精算課税は、受贈者が贈与者ごとに選択できます。しかし、いったん選択すると選択した年以後贈与者が亡くなる時まで、暦年課税に変更することはできません。これが最大のデメリットです。相続対策では暦年贈与が最も効果的です。その暦年贈与が適用できなくなります。

そうはいっても、時と場合によります。例えば、相続が発生した場合に、揉めることが予想されるような場合、贈与者がある相続人に渡したいと思っている資産について、事前に相続時精算課税制度を利用して贈与することは充分に考えられます。

揉めないためには、遺言書を公証役場で公証人によって作成しておくこともありますが、遺言書の作成が面倒という方もおられます。その場合、相続時精算課税制度を利用して贈与しておくと、不動産の場合は所有権移転登記もなされていますので、その物件については揉めようがありません。

相続時精算課税制度による贈与税の額は、贈与財産の価額の合計額から、2,500万円を差し引いた金額に、一律20%の税率を乗じて算出し、一旦贈与税を納税します。

相続が発生した際、相続時精算課税の適用を受ける贈与財産の価額と相続等により取得した財産の価額とを合計した金額を基に計算した相続税額から、既に納めた相続時精算課税に係る贈与税相当額を控除して算出します。

相続税額から控除しきれない相続時精算課税に係る贈与税額については、還付を受けることになります。相続財産と合算する贈与財産の価額は、贈与時の価額となりますので、地価が上昇する見込の土地については早めに価額を確定することができるメリットもあります。

相続時精算課税制度では受贈者ごとに選択できますので、複数人から贈与を受け、各々相続時精算課税制度を選択すれば、それぞれについて2,500万円控除して、贈与税額を計算します。そして、相続時の精算となります。

事業承継税制のデメリット 第248回

平成30年1月より事業承継税制の「特例」が施行されています。「原則」では雇用の8割維持等が求められていましたが、「特例」では雇用維持要件を満たせなかった場合でも、納税猶予が可能となっています。

この場合には、「認定経営革新等支援機関」に認定されている税理士等が意見を記載した書類を都道府県に提出することになります。また、経営環境変化に応じた減免措置も「特例」には設けられています。特例措置の適用を受けるためには、「特例承継計画」を令和5年3月31日までに都道府県知事に提出しなければなりません。

今年、お客様で3件ほど事業承継税制の適用を検討しました。結果、3件ともに申請を見送っています。事前に対策する場合に事業承継税制において納税猶予となるのは、現在持っている株を一括して贈与した場合の贈与税です。

例えば、ある会社では贈与税が1億円だったとします。条件が緩和されたとはいえ、この条件が満たせなかった場合は、この1億円を一括で納税し、更にそこまでの延滞税までを納付しなければなりません。今年のコロナ禍のように、経営環境において何が起こるのかわかったものではありませんので、当然、リスクがあります。

相続が発生した場合の相続税を計算すると、例えば90百万円だったりします。一括で贈与の場合、4,500万円以上は55%の最高税率となりますので、多額の税額が発生します。

それに対して、相続税は6億円超の場合に最高税率55%となり、1~2億では30~40%の相続税率のため、株式だけでなく不動産、金融資産を含めても、株の一括贈与の税額まではいかないことが多いようです。

相続の発生までまだ期間があるとすれば、この例での1億円の贈与税を猶予してもらうよりも、暦年で贈与していく方が安く上がります。暦年で贈与していけば、その都度、低い税率で完結していきます。相続発生時に3年以内の贈与は相続財産として組み入れらるということはありますが、長い目で見れば、暦年贈与は最も効果的な相続対策になります。但し、これは金融機関、コンサル会社の儲けとは関係ありませんので、あまり紹介されることはないようです。