2018年 4月 の投稿一覧

事業承継税制の特例④ 第167回

元気ですか! 福岡市天神の公認会計士・税理士の山崎隆弘です。

「特例」事業承継税制の4つめの改正は経営環境変化に応じた減免です。「原則」では、後継者が自主廃業や売却を行う際、経営環境の変化により株価が下落した場合でも、承継時の株価を基に贈与・相続税を算定し、猶予取消しとなった場合には、過大な贈与税額・相続税額の負担が生じるリスクがありました。

「特例」では、経営環境の変化を示す一定の要件を満たす場合においては、特例承継期間経過後に、

  1. 特例認定承継会社の非上場株式の譲渡をするとき
  2. 特例認定承継会社が合併により消滅するとき
  3. 特例認定承継会社が解散をするとき

には、売却・廃業時の株価を基に納税額を再計算し、減免可能とすることで、経営環境の変化による将来の不安を軽減しています。

「経営環境の変化を示す一定の要件を満たす場合」とは、次のいずれかの場合です。

  • 直前の事業年度終了の日以前3年間のうち2年以上、赤字である場合
  • 直前の事業年度終了の日以前3年間のうち2年以上、売上高が、前期の売上高に比べ減少している場合
  • 直前の事業年度終了の日における有利子負債の額が、売上高の6月分に相当する額以上の場合
  • 特例認定承継会社の事業が属する業種に係る上場会社の株価(直前の事業年度終了の日以前1年間の平均)が、その前年1年間の平均より下落している場合
  • 特例後継者が特例認定承継会社における経営を継続しない特段の理由があるとき

中小企業庁の制度概要の説明では、承継時の株価総額が2億円で納税猶予額が約1億円だったものが、25年後の売却価格が1.2億円と下がり、売却額に基づいた税額が0.6億円となるケースを紹介しています。1-0.6=0.4億円と4千万円減額となっています。

事業承継税制の特例③ 第166回

元気ですか! 福岡市天神の公認会計士・税理士の山崎隆弘です。

「特例」事業承継税制の3つ目の改正は対象者の拡充です。「原則」では一人の先代経営者から一人の後継者へ贈与・相続される場合のみが対象となります。

「特例」では親族外を含む複数の株主から、代表者である後継者(最大3人)への継承も対象となります。中小企業経営の実状に合わせた、多様な事業承継を支援すると「税制大綱」に記載されています。

すなわち、特例承継計画に記載された特例後継者が2名又は3名以上の場合には、当該議決権数において、それぞれ上位2名又は3名の者までが対象となります。この場合、各々が総議決権数の10%以上を有すること等が要件として追加されています。

贈与する側または被相続人は、「原則」では一人に限定していましたが、「特例」では複数人を許容し人数に制限はありません。事業承継税制の市販の解説DVDでは、なぜこのような「特例」を設けたのか、理解できないと言っていました。

実務上、一人の経営者から、一人の後継者が一般的であり、アドバイスもそのようにしているとのことです。

中小企業の場合、複数の親族が株を所有していることがあります。創業者の親から子どもの世代には兄弟各々に株を渡している場合があります。3世代になるとその数が増えたままの会社もあります。そのための対応ではないかと思います。

それでも贈与ではなくて、売買だろうとDVDの講師は言っていました。創業当初は安い株価であっても、その後の業績により株価が高くなり、実際に本人が拠出したのは少しだけという場合を想定しているのかなとも思います。それでもいまこれだけの時価だからと、通常は売買を要求するのではないかとのことです。

また、特例後継者を3人までに拡げているのは、例えば3人兄弟のうち、どの子が経営者として適しているかまだ判然としないことを想定しているのかとも考えられます。

事業承継税制の特例② 第165回

元気ですか! 福岡市天神の公認会計士・税理士の山崎隆弘です。

「特例」事業承継税制の2つ目の改正は雇用要件の見直しです。「原則」では、事業承継後5年間平均で、雇用の8割を維持することが求められています。雇用8割を維持できなかった場合は、猶予された贈与税または相続税の全額を納付する必要があります。

雇用8割維持が、事業承継税制を利用する際のネックになっていました。贈与時に25人の従業員だった場合、8割の20人を下回れば猶予された税金を全額納付しなければなりません。

平成25年度税制改正により「5年平均で8割」と緩和され、平成29年度税制改正により「80%判定の際の端数調整の方法」が見直されました。

すなわち、事業承継税制の雇用要件について、これまで維持すべき従業員数(5年平均で8割)を計算する際に端数を切り上げていたところを、切り捨てることとなりました。

具体的には、5人の場合は8割で4人は同様です。4人の場合は8掛けは3.2人で、切り捨てで3人で要件を満たします。3人の場合は8掛け2.4人で2人、2人の場合は8掛け1.6 人で、1人になっても要件を満たすようになりました。

今回の「特例」では、それでも雇用維持要件を満たせなかった場合であっても、納税猶予を継続可能としています。

ただし、この場合には、その満たせない理由を記載した書類を都道府県に提出しなければなりません。この書類は「認定経営革新等支援機関」からの意見が記載されているものに限ります。

なお、その理由が、経営状況 の悪化である場合または正当なものと認められない場合には、「認定経営革新等支援機関」からの指導及び助言を受けて、書類にその内容を記載しなければなりません。なお、この記載する理由の内容は、原則として、チェックボックスによる選択方式が検討されているようです。

事業承継税制の特例① 第164回

元気ですか! 福岡市天神の公認会計士・税理士の山崎隆弘です。

通常国会では、平成30年度税制改正法である「所得税法等の一部を改正する法律案」及び「地方税法等の一部を改正する法律案」が賛成多数により原案どおり可決され、改正法が成立しました。

両改正法と関連する政省令・告示は3月31日に公布され、原則として4月1日に施行されました。「事業承継税制の特例」は平成30年1月1日から遡及適用されます。

今回から「特例」についての特集です。現行の事業承継税制については「原則」的な制度として、そのまま残ります。

平成30年度改正での「特例」は平成30年1月1日から平成39年12月31日までの間に贈与または相続もしくは遺贈により取得する財産に係る贈与税または相続税について適用されます。

「特例」には大きく4つの改正があります。まず、①対象株式数上限等の撤廃です。「原則」では、納税猶予の対象になるのは、発行済議決権株式総数の2/3までです。相続税の納税猶予割合は80%ですので、実際に猶予される額は全体の約53%(2/3×0.8)に留まります。

「特例」では、「特例認定承継会社」の非上場株式を取得した場合には、その取得した全ての非上場株式に係る課税価格に対応する贈与税または相続税の全額について、その特例後継者の死亡の日等までその納税を猶予されます。

「特例認定承継会社」とは、「特例承継計画」を都道府県に提出した会社であって、中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律第 12 条第1項の認定を受けたものをいいます。福岡県の場合は、窓口は商工部中小企業振興課(092-643-3425)になります。

「特例承継計画」とは、認定経営革新等支援機関の指導及び助言を受けた特例認定承継会社が作成した計画であって、認定支援機関(商工会、商工会議所、金融機関、税理等)が所見を記載したものになります。